東海道新幹線の架線更新

さる2014年10月1日は、東海道新幹線開業50周年にあたる記念すべき日となりました。

さて、50年間にわたり旅客の死亡事故ゼロという記録は本当に素晴らしい事だと思います。
これもひとえに、多くの関係者が安全・安定輸送のために従事している事の結晶ではないでしょうか。
鉄道において車両が最大の商品のひとつです。
0系に始まり現在の主力N700系まで、鬼籍入りした形式も含めて様々な車両が東海道新幹線を駆け抜けてきました。

鉄道愛好者も車両に対して注目がとても高いかと思います。
これに対して、土木、軌道、信号通信、電気など、インフラ部分はなかなか目立たない部分で、多くの方もインフラ部に対して興味を示す方は少ないと思います。
しかしながら、このインフラ部があってこそ車両が走る事ができ、これらが総合的に一体的に運用管理されることで「新幹線」というシステムが機能する訳であります。
このインフラ部のうちの、とても重要な要素のひとつである「架線(=架空電車線)」)がモデルチェンジされることになると、JR東海からプレス発表がありました
架線の方式については鉄道・運輸機構のウエブサイトを参照
従来の東海道新幹線においては、開業当初よりコンパウンドカテナリー方式が採用されていました。*1

(↑徳山駅。両端2線の待避線はシンプルカテナリ方式、中央2線の通過線はヘビーコンパウンドカテナリ方式。)
広義のコンパウンドカテナリ方式*2は、関東の東海道本線湘南電車エリアや関西のJR東海山陽本線、関西民鉄の高速走行する区間、そして新幹線において多用されている架線です。
東海道新幹線のヘビーコンパウンドカテナリ方式を、今後は、高速ヘビーシンプルカテナリ方式に更新していくとのこと。
プレスリリースにもあるように、補助吊架線が不要となることで、部品点数減少による故障の削減およびコストダウンが可能となります。
また、リニア新幹線が開通すると、東海道新幹線は従来のような黒字を出すことは難しくなるでしょうから、リニアが未完成の今のうちに、コストダウンを検討されているのかも知れません。

(↑リニア鉄道館の展示)
東海道新幹線は、2015年春よりスピードアップ(270km/h→285km/h)の予定です。
広義のコンパウンドカテナリ方式は、従来は高速運転向きとされてきましたが、技術開発により、近年開業した整備新幹線区間はすべて高速シンプルカテナリー方式*3を採用されています。

(↑新八代駅。高速シンプルカテナリ方式)
このように新幹線における高速シンプルカテナリ方式は既に実績があるのですが、整備新幹線区間は、列車回数・編成両数が東海道新幹線ほど多くない区間のために、コストダウンされた仕様となっているそうです。
いっぽう、東海道新幹線は、とても本数が多く*4整備新幹線用の高速シンプルカテナリ方式をそのまま東海道新幹線に水平展開する訳にはいかなかったのだと思います。
そのため、JR東海では東海道新幹線の285km/h化も含めて使用条件を考慮し、重い負荷でも高速運転できるように技術開発を行い、ついに実用化の目処が立ったのでしょう。

(↑高井田中央駅。き電吊架線式シンプルカテナリ。)
かように、車両の開発以外にも、いろんな分野の技術開発も実施されています。
鉄道趣味において、車両以外の分野にも少しだけでも目を向けていただけたら、と思う次第です。

*1:開業当初は合成コンパウンドカテナリ方式。ドロッパ線に「合成素子」という上下の揺れを吸収するダンパ付きのばねを取り付けていましたが、後年撤去。1972年以降、現在のヘビーコンパウンドカテナリ方式に改良。

*2:合成コンパウンド、ヘビーコンパウンド含む

*3:北陸新幹線東北新幹線盛岡〜新青森間、九州新幹線

*4:京口において、列車回数が多い時間帯で臨時含め13〜14本/h